まだ少し春を感じさせる空の下で、夏は遂に幕を開ける。
演劇は、音と沈黙と光と闇と、人間との奇跡の出会いである。
ブザーが鳴る瞬間、そこにいるのは別の世界の、別の自分なのだ。煌めく明かり、身を包む緊張と歓喜。仲間。笑い。汗。ここにしかない体験と感動は、この世界に足を踏み入れた者にのみ与えられる。
青春の定義を私は知らない。ただ、一つだけ思いつくことがある。
河川敷、青空のもとでなびく若葉、川を越えて響く友の声、風が運ぶ初夏の匂いーー
これほど純粋で胸を躍らす光景と出会ったのは、この部活を選んだから。
明日で最後の本番を迎える。
前日に持久走で張り切ってしまいノドをやられた私であるが、初めてのちゃんとした役をしっかりやり遂げたいと思う。
振り返れば、今までやって来たのは集団役、謎のスフィンクス(Sphinx)及びケルベロス(Kerberos)、そして見ていた同級生に「漫画だったら3コマで終わった」と言われた科学同好会会長だった。
そして今回回って来たのは初のかわいい役。普段の自分とあまりにもかけ離れていて、うまくいくのかとずっと心配してきた。
この文章を綴っている今でも心配している。
でもやはり、楽しいと思う。好きだと思う。
ステージにいる自分が、好きだ。
隣に立つ仲間が、好きだ。
満足のいく演技ができなくて凹んだ時も、目標に届かなくて悔しがった時も。
そばにいてくれた彼らに、私は感謝しきれない。
部活の中での関わりだけではなく、学校生活でも支えてくれていた。
これで最後になるなんて。
時はずっと流れていき、立ち止まりはしない。
でもその流れの中でこの仲間たちと出会えたことを私は忘れない。
今までの彼らや、新しい一年生とともに舞台に登る時、緊張以外に私は何を感じるだろう。
ただ楽しみたいのかな?このメンバーで描く、人生に一度のこの輝きを。
青い春は過ぎ去りそうで、燃えるような夏はまだやってきたばかり。
初夏を全身に受けながら、私は友と一緒に今を駆けてゆく。